墳丘からの眺め

舌状台地の先端で、祖先の人々に思いを馳せる・・・

「辰野金吾 美術は建築に応用されざるべからず」 河上眞理・清水重敦著

よく晴れた日曜日、家事都合で外出はできなかったのですが、かわりに面白い本を読むことができました。

辰野金吾 (ミネルヴァ日本評伝選)

辰野金吾 (ミネルヴァ日本評伝選)

 

 

以下は裏扉の解説から。

辰野金吾(1854~1919)明治・大正期の建築家。

建築界の礎を築き、東京駅や日本銀行本店など日本を代表する建築作品を設計したことで知られる辰野金吾。ヨーロッパで学んだ「美術建築」という考え方をどう日本に根付かせようとしたのか。新たな資料を元にその足跡を丹念に辿りなおし、従来とは異なる辰野像を提示する。

 

美術は建築に応用されるざるべからず

建築家たる者、このことを深く心に刻んで忘れてはならない、と辰野が造家学会員に語った一節。そこで辰野は、ロンドン留学時代の恩師ウィリアム・バージェスの導きにより絵画の習得に励んだエピソードを引いて、絵画、特に人物がを習得することで「美術建築」の道を拓く必要性を訴えた。

 

「おわりに」に書かれていたこと自体がひとつの物語のようでした。

美術史家である河上氏の工部美術学校への興味が辰野金吾のグランド・ツアー(イタリア旅行)へと向かい、その研究発表が縁で建築史家の夫君の清水氏と辰野金吾の評伝を著すことになり、辰野の足跡をたどっていた平成21年に「辰野金吾滞欧野帳」という幻のスケッチブックが見つかり、「辰野が最も影響を受けた師がコンドルではなくバージェスであったこと」「バージェスが唱える〈美術建築〉観を辰野が学んだと捉えることで辰野の事績を〈美術建築〉の概念から見直すこと」ができたそうです。

 

この本を読むまでは、辰野金吾が人物像や作品から、辰野「堅固」と呼ばれていたことをどこかで見知っていた程度で、「日銀本店や東京駅を設計した明治のエリート」と思い込んでいました。

しかし本書を読ませていただいて、努力してチャンスを掴みとり、欧米の建築文化を現地で観察して柔軟に吸収していった人であったことをよく知ることができました。

 

また、これまで辰野金吾が最も影響を受けたのはジョサイア・コンドルだと思っていたのでウィリアム・バージェスについてさらに知りたいとも思いました。

以下は本書49~51頁より。

・「辰野が師事したバージェスは、ヴィクトリア朝期を代表する著名建築家」で代表作は「ウェールズの中心都市カーディフに残るバージェスの代表作カーディフ城とカステル・コッホ」

・「コンドルも来日以前にバージェス事務所に所属し、その薫陶を受けていた」ので「バージェスとコンドルからの教えには大きな隔たりはない」が「辰野のコンドルへの言及は意外なほど少ない」

・「帰国後の辰野は、バージェスからの教えについて折に触れて語っている」

・「建築は美術と一体として存在すべきとする〈美術建築〉館」や、辰野式建築に見られる「塔が林立する華やかなピクチャレスクの建築表現」はバージェスの影響

 

 サイドストーリーですが、東京駅がアムステルダム中央駅を模倣したという説は、東京駅設計に際して辰野は海外視察をしておらず、それ以前にもアムステルダムを訪れた記録はないので明確に否定できる。(しかし、駅舎としてのプログラムにおいて参照されたのだろう)、ということも面白かったです。

 

建築物の写真や辰野の手によるスケッチなど図版も豊富です。

GW中の読書にいかがでしょうか。

 

辰野金吾 - Wikipediaに主な建築作品のリストがあります。