墳丘からの眺め

舌状台地の先端で、祖先の人々に思いを馳せる・・・

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「サハリンへの旅」 李 恢成 著

この”旅”は1981年に南サハリンの故郷を2週間だけ訪ねた作家、李 恢成(り かいせい:イ・フェソン、1935~、樺太真岡郡真岡町生まれ)のドキュメンタリーでした。

 

著者が家族(全員ではない)とともに、引揚者収容所から日本本土へ“引揚げ”たのは1947年7月。

当時の引揚者の対象は「ソ連地区引揚に関する米ソ協定」に基づき「一般日本人」と「日本人捕虜」に限られ、終戦時に43,000人いた朝鮮人は対象ではなく、その大部分はサハリンに残って無国籍状態を経てソ連国籍を取るか”在ソ朝鮮人公民”となるかを選択せざるを得なかったのだそう。

共産主義国家としての関係から北朝鮮へは渡れるが韓国へは行けない。その後に韓国が帰国の道も開くが当時強烈な反共政策を取っていた当時の韓国にソ連から戻るのはリスクがあった、という時代。

結局はソ連国籍を取らないとサハリン島内の移動さえ自由にならないという理由でサハリンでソ連国民となる選択をした方が多かったようです。

 

著者の”祖国”訪問実現はソ連作家同盟の特別な計らいによるものでしたが、1981年という時代におけるソ連の思惑(発展ぶりを書いて欲しい?)もあったものと感じられました。

 

自由に出歩くことが制限された訪問でも、子ども時代の思い出が残る街、建物のガワはそのままだが装飾がすっかりソビエト化した公的建築や、地形や線路跡は残るが平屋建ての住宅街が団地群になっている様子など、大きな変化の中にも残るかつての痕跡が描写され、読んでいるこちらもノスタルジックになる場面が多くありました。

現地に残った親戚との34年ぶりの再会や、すでに他界された祖父の墓参りなどセンチメンタルになるシーンもありますが、子ども同士の交流や、かくしゃくとした祖母のふるまいなど、希望や安堵を感じさせるシーンもあります。

背景となるサハリンの自然描写にも惹かれました。

 

登場したみなさんが、今もどうかお元気であることを願います。