前回のつづきの慶應義塾大学アート・センター主催によるガイドツアー「三田山上で出会う近代建築と彫刻」で、最後に見学したのが旧ノグチ・ルーム(萬來舎)だった。
1951年竣工で設計は谷口吉郎(たにぐちよしろう)。鉄筋コンクリート造り2階建て。
2005年に西館の3階テラスへ移築、移築設計は隈研吾。
上下に開閉する窓は、かつてこの建物のあった場所に向かい合っていた演説館の窓とも呼応していた。
解説シートによれば「直線のリズムが美しい特徴的な縦長の窓の意匠など、数多く存在した谷口建築のよすがを知る唯一の遺構」
谷口吉郎は戦災被害を受けた三田キャンパスの復興計画を任され「既存建築と調和しつつ新しい息吹を感じさせる”造形交響詩”を奏でようと次々と建築を手がけていった」
それらの建築で最後まで残ってたのがこのノグチ・ルームを含む第二研究室だった。
谷口吉郎 - Wikipediaによれば近代美術館本館や東博の東洋館をはじめ多くの作品を残している。
ご子息の谷口吉生 - Wikipediaも数々の名建築を手がけている。
なんとツアーでは、イサムノグチとの共同製作による建物内部に入ることができた。
室内は、まさに建築と家具、機能とデザインとが融合し、空間全体に「萬来舎~すべての人を受け入れる」というコンセプトが行き渡っていることが実感できた。
「座って」話すが基本の日本人も、「立って」が基本の欧米人も、わけ隔てなく受け入れられて会話がなされるような、”ソサエティ”の実現が設計思想にあるとのこと。
壁や天井は一部はずされていて、大きな布で元の位置が表現されている。
太い柱はコンクリートむき出しだが、藤製のミニ座敷のようなベンチ、その奥についた小さな床の間、煙だしのついた暖炉、柔らかな曲面の壁で仕切られたミニキッチンなど細部まで見どころが沢山。
2階への螺旋階段だけはオリジナルが移築されていたが、コンクリート一体型打ち成形が描くカーブはとても優美だった。
内部は撮影可だったが、残念ながらWEB上へのアップは不可。
公式サイトに内部の写真が掲載されている。
慶應義塾大学アート・センター(KUAC) | ガイドツアー&ワークショップ「三田山上で出会う近代建築と彫刻」
イサム・ノグチの父親、ヨネ・ノグチが慶應義塾で長く教鞭をとっていたという縁で、谷口吉郎とのコラボレーションが実現したとのこと。
時々特別公開日があるようです。
慶應義塾大学アート・センター(KUAC) | 慶應義塾三田キャンパス 建築プロムナード——建築特別公開日
内側から見た庭。
置かれた彫刻作品もイサム・ノグチによる。
「無」イサム・ノグチ 1950~1951 安山岩(白川石)
もとはノグチルームの西側に置かれ、沈む夕陽がちょうど輪の中に来る「石灯籠」として構想されたとのこと。
庭からの眺めも気持ちが良かった。右手に見える慶應義塾中等部校舎も谷口吉郎の設計。
桜田通りの南東側方向。
南側方向は高輪方面への細長い台地が続く。高層ビルはベルサール三田。
移築した庭園のデザインはMichel Desvigneによるとのこと。もう紅葉?
もともとの庭園にはイサム・ノグチ彫刻が3体あった。内2体は西館に入口を入ってすぐの屋内に展示されている。
「学生」1951年 鉄製
高さ4mで「学生が折りとじの本をばたばたと開いているところをイメージした作品」として伝えられているとのこと。
「若い人」1950年 鉄製
つづく。