墳丘からの眺め

舌状台地の先端で、祖先の人々に思いを馳せる・・・

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歌川国貞~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち~展 @静嘉堂文庫・世田谷区岡本

1月20日の土曜日夕方、この日から開催される歌川国貞展を見に静嘉堂文庫へ出かけました。

解説によると、菱川師宣が始めたとされる浮世絵は、初めは2,3色の色使いであったものが鈴木春信によって多色刷りへと進み、裕福な趣味人の間で行われた「絵暦交換会」の興隆で洗練されて、江戸庶民を熱狂させる「錦絵」となりました。

その錦絵の、”王道”である美人画と役者絵の名手が歌川国貞(1786~1864、三代歌川豊国)でした。国貞は若くから頭角を現して59歳で師の名を継いで三代豊国を名乗り、歌川派の総帥として活躍したそうです。

 

この日は”ブロガー向け内覧会”。始めに講堂で太田記念美術館の日野原学芸員、静嘉堂文庫の成澤司書、青い日記帳のTak氏によるトークショーがありました。

日野原氏にとって国貞は「一押し」の絵師とのことでしたが、江戸時代で人気No1の浮世絵師は北斎でも国芳でもなく国貞だったこと、国貞は20代半ばから70代終わりまで第一線で活躍したので作品数が多く、最低でも1万点以上存在して2万〜3万点とも言われ今でも多く市場に残るせいか他の著名浮世絵師に比べ評価が(不当に?)低いことなど、興味深く拝聴しました。

日野原氏私蔵の一点を直に見る機会もありましたが、色鮮やかで空刷りの入ったとても美しい大判錦絵でした。

 

展示室の作品は90点ほど。

浮世絵製作は絵師だけでなく、版元や彫り師、摺り師による共同プロジェクトである旨の解説もありましたが、さらにそれを丁寧に保存した岩崎家・美術館の技(保管師?)も加わって、鮮やかな「錦」を堪能することができました。

 

自分は2015年に「春信一番!写楽ニ番!」展を三井記念美術館で見て、一番の絵師は北斎でも歌麿でも広重でもなく春信か、と思いましたが、実は当時の江戸の人々にとっては国貞が一番であったと今回認識を新たにしました。

 

 

※館内は撮影禁止ですが、以下の写真は美術館より特別に撮影の許可をいただいています。

 

講演の後は成澤司書によるギャラリーツアーがありました。

 

こちらは、文政6年(1823)頃に作られた「今風化粧鏡」のシリーズで、手鏡の中にその手鏡で化粧中の女性達が描かれます。

手前の女性はさらにもう一つ手鏡を使って合わせ鏡しながらうなじを触っていたりしますが、鏡の横には「美艶仙女香」が描かれていて、さりげなく商品PRもしています。

 

上記の6連を反対側から。左端の女性はお歯黒を塗るのに唇まで筆が動いたので、しまった!という表情になっています。

隣の展示ケースには実際に江戸期に使われていた手鏡や化粧台も置かれていて、江戸期をリアルに感じることができました。 

 

こちらは「星の霜当世風俗」シリーズで、右から「水くみ」「蚊やき」「外出(そとで)」

国貞の美人画は、花魁だけでなく、町人などの江戸の暮らしを丁寧に描いています。

「蚊やき」 は蚊帳の内側に入り込んだ蚊を焼こうとしている様子。蚊帳が焼けないかと心配ですが・・・

 

こちらは左が艶っぽい「思事鑑写絵(湯上り)」、右が「江戸自慢 五百羅漢施餓鬼」

右は折りたたみ式の蚊帳の中で子供をあやす女性ですが、上記の蚊やきと同じく蚊帳の網目が細い線で描かれており、この線を版木に彫り残した彫り師はさぞかし大変であったことでしょう。

 

時代を経ていくとますます色鮮やかさが増して、まさに「錦」の色合い。左の「卯の花月」は、初鰹売りが長屋のおかみさん達に囲まれて鰹をおろしている場面。

 

戯作者の柳亭種彦(1783~1842)が書いた「偽紫田舎源氏」は源氏物語を室町時代に仮託した長編で、国貞の挿絵と相まって「源氏絵」というジャンルが形成される程の爆発的な源氏ブームを巻き起こしたそう。 

 

こちらは双筆(二人の絵師による合作)の五十三次。安政元年(1854)から翌年にかけて刊行され、前景の人物画を三代豊国(=国貞)が、背景の風景画を広重が担当した。

左は沼津、右は大磯。これぞコラボ。

ちなみに絵と絵の間には別の絵を覆う白い紙があります。絵が画帖の頁の両面に貼られていることによるもので、公開期間や展示テーマで見せる部分と隠す部分を分ける美術館の苦労の跡です。画帖の形になっていることが保存状態を良くしています。

 

こちらはポスターにもあった「仁木弾正左衛門直則 五代目松本幸四郎 秋野亭錦升 後 錦紅」文久3年(1863) 五代目松本幸四郎は鼻高(はなたか)幸四郎との異名を持っていたとのこと。

 

「豊国漫画図絵」シリーズは、摺ったばかりのような色鮮やかさ。

 

最後のケースには肉筆で描かれた「芝居町 新吉原 風俗絵鑑」

大勢が描かれた芝居小屋には、芝居を見る人、食事をする人、喧嘩する人などの一人ひとりの豊かな表情が描き分けられています。

日野原氏によれば絵の具は良いものが使われており、どこからか依頼されて描いたと推測されるようです。

後期は吉原の場面に変わります。

 

会期は3月25日まで(前期2月25日まで。後期2月27日から)一般1000円

公式サイトの作品解説はこちら ↓

http://www.seikado.or.jp/exhibition/constitution.html

 

 

 

ここからは蛇足。

この日の帰路、二子玉川駅まで東急バスに乗りました。

行きに丘の麓の静嘉堂文庫バス停の時刻表を確認し、17:32発があったので5分前にバス停に着きました(時刻表にはその次が17:49発、さらに次が18:07発とありました)

17:50頃バスは来ましたが人が大勢乗っていて、ドアは開かずに「満員なので通過します。すぐ次が来ます」と外にアナウンス。

前のが遅れて続いているのかと思いきや、「次」が来たのは18:10頃でした(そのバスに乗ると、07分発との車内アナウンスがありました)

歩けば15分のところ40分以上待つとは(さらにぎゅうぎゅうバスに10分ほど)

「すぐ」と聞かなければ、すぐに歩き出したのですが・・・