墳丘からの眺め

舌状台地の先端で、祖先の人々に思いを馳せる・・・

静嘉堂文庫「~かおりを飾る~珠玉の香合・香炉」展 東京都世田谷区岡本

6月18日の午後、香合(こうごう)・香炉(こうろ)をテーマとした珍しい企画展を静嘉堂文庫へ見に行った。

正門は緑の濃い崖線下にある。

 

小川にかかる橋を渡り、ゆるやかな上り坂を進む。

 

坂の上の開けたところに美術館と文庫の建物が並んでいた。

 

こちらは普段は非公開の静嘉堂文庫。 

 

 大きなアーチの内側に玄関がある。

 

大正期に建てられた東京都歴史的建造物。

東京都選定歴史的建造物 静嘉堂文庫
所在地:世田谷区岡本2-23-1
設計者:桜井小太郎
建築年:大正13年(1924)4月
武蔵野の面影をよく留める丘陵の一隅にこの建物は建っている。鉄筋コンクリート造2階建スクラッチ・タイル貼りの瀟洒な建物で、イギリスの郊外住宅のスタイルを濃厚に表現している。
静嘉堂文庫は、三菱合資会社の第4代社長であった岩崎小彌太が、その父彌之助の収集した日本や中国の貴重な古典籍を永久に保存し、更に研究者に公開することを目的に建設したものである。
設計者の桜井小太郎(1870~1953)は、イギリスで建築を学び、英国風の落ち着いた品格のあるデザインを得意とした。岩崎小彌太も明治33年イギリスに留学し、ケンブリッジ大学を卒業した英国通であり、両者の呼吸が一致した作品である。内部は玄関ホール、ラウンジ、閲覧室、2階に応接室等があり、19世紀後半イギリスのアーツ・アンド・クラフト運動の雰囲気を持っている。東京都生活文化局

 

玄関の右手は六角形の角度に張り出した壁面。

 

左手は縦型の窓が並んでいた。

 

クラッチタイルを誇示するような見事な壁面。

 

屋根の妻型の意匠が重なる煙突。

毎年秋の東京文化財ウィークの際に内部見学会が設けられる時があるが、残念ながら抽選に当たったことがない。

 

その左に建つ静嘉堂文庫美術館

三菱財閥の二代社長岩﨑彌之助(1851~1908:彌太郎の弟)と四代社長岩﨑小彌太(1879~1945)の父子二代によって築かれたコレクションは、20万冊の和漢の書と東洋古美術品6,500点となり、国宝7点、重要文化財84点を含んでいる。

http://www.seikado.or.jp/about/index.html

 

入場料は一般1000円だが、ぐるっとパスで「入場」できる。

 

香炉(こうろ)は香料を焚く器、香合(こうごう)は香料を入れる容器のこと。

香合は手のひらにのる程の大きさで、小さなものを「かわいい」と愛でる、今に続いている”日本文化”の江戸期の雰囲気をリアルに感じることができた。

 

8/13まで開催される同展だが、この日”ブロガー向け”とする内覧会とトークショーに伺った。

 

香炉というと自分には「お焼香」しか縁がなかったが、香の文化は仏教とともに「仏前に芳香を献ずるもの」としてインドや東南アジアから日本に伝わり、室町期には道具としての香炉・香合が唐物(からもの)を愛でる時流に乗り、茶の湯に取り入られて江戸期に大変な人気を博すようになったそうだ。

香りを”聞いて”鑑賞することは平安期からあるそうだが、そこに禅が加わった”香道”では、茶の湯で炉に炭を入れる「炭点前」からお点前に活かされることで茶道具に取り込まれ、香炉から離れて多彩な形が造られるようになったとのこと。

http://www.seikado.or.jp/exhibition/index.html

 

この日は初めに1時間ほど、本展企画された学芸員長谷川祥子氏、陶磁研究家の森由美氏、”青い日記帳”ブロガーのTak氏によるトークショーを聴講。

静嘉堂文庫は香炉を百数十点、香合を二百五十点所蔵し、本展ではその中から計100点ほどが展示されている。蓋のついている小型の合子を香合といっているので何か別の貴重品を入れていた可能性も考えられなくはないが、蓋を合わせて香りが逃げないように高い密閉度のつくりとなっているそうだ。

今回、話題の曜変天目茶碗も展示されているが、茶の湯文化が天正年間あたりで人々の価値観をひっくり返していくその直前の、唐物珍重志向が高かった室町期の価値観を代表するもののひとつとして見せているそう(と受け取りました)

  

トークショーの後にいざ展示室へ。

 ※以下の写真は、内覧会の際に美術館より特別の許可をいただいています。

 

右のケースには、明代の宣徳年間(1426~35)に中国で作られた堆朱雲竜大香合。

堆朱(ついしゅ)は漆を塗り重ねた表面を彫って模様をつけるもの。鎌倉彫りの源流になる。

 

上を向く白鷺は背中に穴のある「銹絵白鷺香炉」、野々村仁清の作(江戸期:17世紀)

 

こちらの極彩色の陶器のほら貝「色絵法螺貝香炉」も野々村仁清の作で、こちらは重要文化財

 

ずらりと並ぶ、蒔絵の香合。手にとってみたくなる形をしている。

 

国宝の曜変天目は中を見やすいように床から70cmの低い台に置かれていて、妖しく光を反射する内側の底まで観察することができた。

南宋時代(12~13世紀)に中国の建窯でつくられている。

 

その近くには、曜変天目と同じ大きさ・重さ(276g)で作られたお茶碗を手にとれるようになっていた。意外に軽くて持ちやすかった。

 

左は大名の嫁入り道具であった「吉野山蒔絵十種香道具」

十種の香りの組み合わせを「聞いて」当てる「組香」の道具だが、答えを物語の一場面が描かれるカードで示す仕組みで遊ぶにも高い教養が必要となる。さまざまな道具が豪華な外箱にぴったり収まる造りになっていた。

 

香木を計る道具(右)や 収めておく香棚も精巧につくられている。

 

江戸末期の安政2年に刊行された香合の番付表も展示されていた。

 

その拡大パネル。

番付に載っているそのものの展示もかなりあった(青くハイライトされているもの)

 

東の番付に多い交趾(こうち)とは、ベトナムのコーチシナ(交趾支那)との貿易で交趾船によりもたらされた中国南部産の陶磁器で、茶の湯の世界で珍重されて香合がとくに尊ばれていたとのこと(Wikipediaより)


右寄りに、器を包む布袋とともに置かれているのは狸の形をした交趾の香合。明代(16世紀末~17世紀)に中国の漳州窯でつくられたもの。上記番付上段中ほどの前頭に示されている。 

 

香合や香炉を見ていると、いったいどのような香りを「聞けた」のか気になるが、ミュージアムショップで松栄堂の商品がいくつか販売されていて、数種のサンプルを嗅ぐことができた。最近いただいた扇子の香りを思い起こした。

 

香料については、その松栄堂の作成協力によるパネル説明があった。

パネルには、大茴香(だいういきょう)、竜脳(りゅうのう)、乳香(にゅうこう)、山奈(さんな)、桂皮(けいひ)、白檀(びゃくだん)、貝香(かいこう)、丁子(ちょうじ)、藿香(かっこう)、鬱金(うこん)、沈香(ちんこう)が示されていたが、貝香以外は植物成分。
このうち竜脳は、奈良の「マルコ山古墳からの出土品に含まれていて、その芳香が認められて話題になった」とあった。

 

 

静嘉堂文庫では7/1に「香づくり」のワークショップが実施される。ご興味あれば下記で予約を。

http://www.seikado.or.jp/exhibition/index.html

 

展示室ロビーからガラス越しの遠望。国分寺崖線上から南西の多摩川方向。