墳丘からの眺め

舌状台地の先端で、祖先の人々に思いを馳せる・・・

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「今までにない職業をつくる」 甲野善紀著

自分は著者の甲野氏について「古武術の研究家」であり、猛稽古や鍛錬の世界で術を身につけられている方というイメージを持っていましたが、この本を読んでそれが覆されました(よい意味で)

今までにない職業をつくる

今までにない職業をつくる

 

 

本の中には写真入りで「太刀奪り」「辰巳返し」「屏風座り」「虎拉ぎ(とらひしぎ)」「浮木の腿」などの技の解説が出てきて興味深いです。

写真による解説もありますが、これは氏の主催する講習会等で実際に身体で体験しないとわからないと思われます。本書では、それらの学び方、考え方となるバックボーンが語られていて参考になりました。

 

たとえば、「易から難へ」の学び方では限界があるということ、常識の裏や隙間に新しい発見が隠れているということ、武術とは変わり続けるもので技を研究していれば必ず新たな気付きがあり、それが次の気付きを呼んで絶え間なく進展していくということ等です。

 

さらに、子供たちにそのような探究心を持たせる教育こそが大切であり、「ものを学ぼうとする意欲を損なわせないようにして、好奇心から生まれる発想を育み、これからの時代の中で役立つようなものの発見発明を促すようにすること」が急務と説かれています。

 

甲野氏は「現在の体育等ではまったく教えられていない有効な身体の使い方があり、そうした身体を通しての実感から行動を始める方が少しでも増えてほしい」という気持ちから本書を書かれたそうです。音楽などの文化活動も身体を微妙に使う「体育」であり、その感覚を養うべきという話として、楽器演奏も身体の使い方で音が変わる、つまりフルートの持ち方やピックの挟み方、ピアノの鍵盤への手の乗せ方を、ある手順で行うと肩の力が抜けて音が変わるという具体例も面白かったです。

 

タイトルの「今までにない職業をつくる」は、甲野氏自身が辿ってきた人生への態度、つまり、さまざまな状況の中で、どう対応し何を選択していくかを絶えず自発的に工夫研究してきた「武術」への興味に裏づけされた言葉でした。

 

甲野氏は、どんな仕事をするかということで行き詰っている人へのアドバイスとして2つの方法を推奨しています(本書172頁)

ひとつは何もしないこと=「引きこもり」 出歩きもせず、ただずっと引きこもって趣味的なことも一切何もしないことを自分に課すと何かせずにはいられない自分が出てくるがそれも我慢して3ヶ月くらいするといろいろなものが新鮮に感じられてくる。

ひとつは何をするかを徹底して考えること。今の時代の矛盾、たとえば食や医療や農業などの問題について自分が何をしたらいいかを徹底して考え抜く。

それを通して「突き抜けたら」何をしたらいいかがわかってくる。

 

就活真っ只中の学生の方々にとっては、今から3ヶ月何もしないことはそれ自体が厳しい選択にもなるでしょうが、上記の2つの方法を試すことができるのは学生時代くらいではないか、モラトリアム(古語か)やどっぷり何かに浸かることにも意味があると思いました。